「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の2つについて、どこが違うのか分からないという方もいるかもしれません。
この記事では就労継続支援A型とB型の違いについて、対象者やサービスの中身、給与水準などの観点から解説します。就労継続支援事業に取り組みたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
就労継続支援とは
そもそも「就労継続支援」とは障害福祉サービスの一種で、障害・病気などのため一般的な会社(事業所)で働くことが難しい方に対し、働く機会・場所を提供する制度です。
障害のある方々をサポートする制度はさまざま存在しますが、「就労継続支援」は得に次のような要素を提供することにフォーカスしているともいえます。
- 就労の機会を提供する
- 生産活動の機会を提供する
- 知識・能力の向上に必要な訓練を提供する
しかし「一般企業に雇用されることが困難な方々」といっても、その状況は千差万別です。障害のある方に真に寄り添う制度とするからには、利用者の程度に合わせることが必要でしょう。
そのため、障害者総合支援法における「就労系障害福祉サービス」には、次の4種類が存在します。
- 就労移行支援
- 就労継続支援A型
- 就労継続支援B型
- 就労定着支援
このうち共通点は多いものの、差異も少なくない制度が「就労継続支援A型」と「就労継続支援B型」の2つです。それぞれの制度の特徴について、詳しく見ていきましょう。
就労継続支援A型の特徴
まずは就労継続支援A型の特徴について紹介します。
事業所数 | 4,575(令和5年12月) |
---|---|
利用者数 | 88,967(令和5年12月) |
対象者 (どんな方が利用するのか) |
利用開始時に65歳未満 雇用契約に基づく就労が可能 |
サービスの中身 | 雇用契約に基づく就労の機会を提供 一般企業での就労移行支援 |
給与水準 | 労働関係法令に従う (最低賃金を順守) |
対象者(どんな方が利用するのか)
就労継続支援A型の対象者は利用開始時に65歳未満で、就労機会の提供を通じて生産活動にかかる知識・能力の向上を図ることで、雇用契約に基づく就労が可能な障害者とされています。(雇用契約に基づく就労であることがポイントです)
たとえば特別支援学校を卒業して就活したものの一般企業からは採用されなかった方や、一般企業で働いていたものの退職した方などが、就労継続支援A型事業所で働きます。
サービスの中身
就労継続支援A型では、現状では一般企業での就労が難しい方に対して、まずは通所によって雇用契約に基づく就労の機会を提供することになります。
そして一般就労に必要な知識・能力が高まった方については、一般企業での就労へ移行するよう支援していくこともポイントです。
なお、就労継続支援A型は雇用契約を結ぶことになるため、最低賃金を含め労働関係法令の適用を受けます。しかし一般企業のように「週五日・一日あたり8時間」と働くケースは多くありません。働く時間はさまざまですが、勤務日は週3〜5日程度、一日あたりの労働時間は4時間以上〜6時間未満など、利用者の負担にならない水準で設定されていることが多いです。
また、就労継続支援A型では利用期間の制限がないため、利用者は期限に縛られることなく働き続けられます。
就労継続支援A型での仕事例
- データ入力・パソコン事務作業
- 包装・パッキング作業
- ホールスタッフ
給与水準
就労継続支援A型では雇用契約を結ぶため、最低賃金以上の給料を支払わなければなりません。
最低賃金は都道府県によって違いますが、あくまでも健常者を雇用するときと条件が変わらないことは覚えておきましょう。
許認可の要件
就労継続支援A型の要件について、いくつか紹介します。
まず主な人員配置は次のとおりです。
- 管理者
- サービス管理責任者
- 職業指導員・生活支援員(10:1以上)
そして指定就労継続支援A型事業者は、「生産活動で発生した収入」から「生産活動の必要経費」を差し引いた額に相当する金額が、「利用者に支払う賃金の総額以上」となるようにしなければなりません。
また、賃金の支払いは、 原則として「自立支援給付」で充当してはならないともされています。
つまり、「最低賃金以上の賃金を払える仕事を確保し、それによる利益はすべて利用者に還元すること」「事業所の人件費や家賃などは国からの報酬(自立支援給付)で賄うこと」と決められているのです。
サービス利用者(障害のある方)に賃金を払いつづけられるよう売上を確保しなければならないため、 指定就労継続支援A型事業者の運営は簡単ではないといえるでしょう。
就労継続支援B型の特徴
つづいて就労継続支援B型の特徴について見ていきましょう。
事業所数 | 17,059(令和5年12月) |
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利用者数 | 348,016(令和5年12月) |
対象者 (どんな方が利用するのか) |
就労継続支援事業A型での就労経験があるものの、年齢・体力面で雇用継続が困難となった方など |
サービスの中身 | 雇用契約によらない就労・生産活動の機会提供 |
給与水準 | 工賃 (最低賃金に影響されない) |
対象者(どんな方が利用するのか)
就労継続支援B型の対象者は、就労移行支援事業など別制度を利用したものの一般企業への雇用に結びつかなかった方や、一定年齢に達している方などの中で、就労機会を通じて生産活動にかかる知識・能力の向上維持が期待される障害者とされています。
厚生労働省の「就労系障害福祉サービスの概要」資料によると、次のような方が挙げられています。
- 就労継続支援事業A型での就労経験があるものの、年齢・体力面で雇用継続が困難となった方
- 50歳に達している方
- 障害基礎年金1級受給者の方
- 上記に該当せず、就労移行支援事業者によるアセスメントにより、就労面に係る課題などが把握されている方
- 通常の事業所に雇用されている障害者であって、主務省令で定める事由により、当該事業所での就労に必要な知識・能力の向上のための支援を一時的に必要とする方
このように「雇用契約」が難しい方であっても、就労継続支援B型であれば就労機会を得ることが出来るように創られた制度です。また、就労継続支援B型には年齢制限がないことがポイントです。
サービスの中身
就労継続支援B型では先述したとおり、通所によって雇用契約を結ばずに就労・生産活動の機会を提供してもらえることが最大の特徴です。
しかし一般就労に必要な知識・能力が高まった方については、一般就労などへの移行に向けた支援も受けられます。
また、「サービス利用開始から〇年間」などの利用期限の制限もありません。
就労継続支援B型での仕事例
- 手工芸・封入作業
- 農作業
- 調理・製菓
- 内職作業
給与水準
就労継続支援B型は雇用契約を結ばずに就労するため、最低賃金はありません。
賃金ではなく「工賃」という形で報酬が支払われることがポイントです。
許認可の要件
就労継続支援B型の人員配置については、次のとおり就労継続支援A型と同様です。
- 管理者
- サービス管理責任者
- 職業指導員・生活支援員(10:1以上)
就労継続支援B型の要件でとくに知っておくべきことは、「工賃」の扱いでしょう。事業者指定の要件として、平均工賃が工賃控除程度の水準(月額3,000円程度)を上回ることが定められています。そして事業者は平均工賃の目標水準を設定し、実績と併せて都道府県知事へ報告・公表しなければなりません。
就労継続支援A型とB型の違い
ここまで紹介した特徴をふまえ、就労継続支援A型とB型の主な違いについてまとめてみます。
比較項目 | A型 | B型 |
---|---|---|
雇用契約 | あり | なし |
対象者 | 雇用契約に基づく就労が可能な方 | 雇用契約に基づく就労が難しい方 |
報酬 | 給料 (最低賃金を順守) |
工賃 (最低賃金に影響されない) |
事業所数 (令和5年) |
4,575 | 17,059 |
利用者数 (令和5年) |
88,967 | 348,016 |
働き方 | さまざま 週3~5日程度 一日あたり4時間以上〜6時間未満 などが一般的 |
さまざま 週1日 1日1時間だけ なども可能 |
また、報酬の実績についても差があります。厚生労働省が発表した令和4年度の実績は次のとおりです。
施設種別 | 平均月額 | 平均時間額 |
---|---|---|
A型事業所 | 83,551 円 | 947 円 |
B型事業所 | 17,031 円 | 243 円 |
一方、「利用期間の定めがないこと」「職業指導員・生活支援員の人員基準」などの条件は就労継続支援A型とB型で同じです。
これらの違いをふまえ、事業所を運営する立場から見た違いについても考えてみましょう。
運営する立場から見た就労継続支援A型
就労継続支援A型では利用者と雇用契約を結ぶため、最低賃金を守らなければならないことを紹介しました。
しかし最低賃金だけではなく、健康保険や雇用保険など各種社会保険についても整備しなければなりません。利用者やバックオフィス業務に必要な人件費が増えやすいため、就労継続支援A型は固定費が増えやすいことは覚えておくべきでしょう。
その一方、働き手を安定的に確保できるため、事業所としての作業能力を向上させやすいことはメリットだといえます。売上の見通しも立てやすいと言えるでしょう。
また、雇用関係の助成金を得やすいことも就労継続支援A型ならではのメリットです。
運営する立場から見た就労継続支援B型
就労継続支援B型では雇用契約を結ばないため、人件費を抑えやすいことが特徴です。先述した令和4年度工賃(賃金)の実績を見ても、B型事業所はA型事業所と比べて報酬が少ないことは一目瞭然です。平均工賃が工賃控除程度の水準(月額3,000円程度)を上回る必要はあるものの、ある程度は自由に賃金・就労体系を組めることはメリットです。
しかし、そもそも就労継続支援B型は生産性ではなく、利用者の訓練・リハビリにフォーカスしていることは否めません。利用者も週に1日だけ、1日に1時間だけと短時間で就労することも珍しくはないため、就労継続支援A型と比べると生産活動の売上に関しては、見通しが立てづらいと言えます。
まとめ
就労継続支援A型とB型の違いとしては、雇用契約の有無が第一に挙げられます。A型は雇用契約に基づく就労が可能な方、B型は雇用契約に基づく就労が難しい方を対象にしているということです。
就労継続支援事業に取り組みたいと考えている方にとっては、A型とB型のどちらにすべきか迷ってしまうでしょう。
結論として、A型とB型のどちらを選ぶべきかは、非常に難しい問題です。
ビジネス的な観点で見るとA型のほうが運営がしやすいかもしれませんが、やはり売上を立て続けることは簡単ではありません。令和5年の事業所数を見ても、A型は4,575と、B型の17,059と比べて1/3程度に留まっています。
B型は利用者と雇用契約を結ばないため、柔軟に運営しやすいことがポイントです。しかしビジネスとしてではなく、社会貢献活動としての側面が強いともいえるでしょう。
このようにA型とB型のどちらを選ぶべきかは一概にはいえないのです。
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